青葉城の鬼
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徳川四代家綱のころ、幕府の外様大藩取潰しは伊達六十二万石に及ぼうとしていた。大老酒井雅楽頭は当主綱宗の叔父伊達兵部を甘言で篭絡し、兵部の陰謀のために綱宗は隠居を命じられ、近臣らは暗殺団に襲われた。このために父を失った幼ない宇乃姉弟は、伊達家重臣原田甲斐に引取られた。彼の宿所良源院には国許から移植した一本の樅の木があった。伊達家世継は二歳の亀千代が選ばれ、兵部は雅楽頭の推薦で後見役に立てられた。甲斐は失意の綱宗を訪ね、伊達安芸、茂庭らの同志と密会した。御番あきで仙台の青葉城下へ帰った甲斐は、茂庭家との不和をはかり兵部の信任を得たが、安芸一派から裏切者と憎まれる結果になった。ある日、宇乃が塩沢丹三郎と共にはるばる訪ねて来た。甲斐は宇乃を恋する丹三郎の告白に、宇乃が自分を想っていることを知り愕然とした。数日後、甲斐が江戸を訪れた折しも亀千代の毒味役丹三郎は血を吐いて倒れた。甲斐の苦心も空しく、安芸はこの事件を兵部の陰謀として訴え出たので、雅楽頭は取潰しの口実を掴んだと狂喜した。幕府の裁判が近づいた時、雅楽頭が書いた「伊達家改易の場合兵部に三十万石を与える」という証書を手に入れた甲斐は、深夜将軍お側衆久世大和守を訪れた。そして酒井邸で行われた裁きの日、内紛を理由に改易を申し渡される寸前、甲斐は証書を示し、その責任を問うて雅楽頭の顔色を失わせた。秘密を知られたからはと雅楽頭は刺客を放って伊達家の者を斬らせた。数人の刺客たちを切り伏せたものの、瀕死の重傷を負った甲斐は喧嘩両成敗になることを恐れ苦しい息の中から一切を自分の乱心の結果と訴えた。彼の苦衷を知る大和守は六十二万石は安泰だと告げてやったが、甲斐はかすかに微笑を浮かべ、「宇乃……」とつぶやいた。間もなく、雪の良源院、孤独な樅の木を見つめる宇乃の目には一杯の涙があふれていた。